著書紹介

『公共する人間2 石田梅岩−公共商道の志を実践した町人教育者


副理事長 中尾敦子  .

13.05.26   
 最近の亀岡で出会った心学関係書物を紹介したい。
『公共する人間2 石田梅岩―公共商道の志を実践した町人教育者』
         片岡龍・金泰昌編 :東京大学出版会 (2011年10月初版)
がそれである
 本書は、2010年7月大阪で開催された第97回公共哲学京都フォーラム『公共する人間としての石田梅岩を日中韓で語り合う』の内容をまとめた書物であり、「公共する人間」シリーズ全5巻中の第2巻である。
本来2011年3月発刊予定が、未曾有な被害を東北地方にもたらした大震災の影響で、スケジュールが変更されたと緒言に編者が記している。

 編者東北大学大学院文学研究科片岡龍准教授の研究室から見る諸相は、それまで映し出されたこともない社会であったと想像できるが、その現実を認識し、向き合いながら本著の発行に取り組まれたことと思う。過重な負荷を背負う中で、『公共』 『公』 を再考する仕事であったのではないだろうか。

 本稿筆者は、学問の専門性を、どのように現実社会の人々、暮らしに照射できるのかをライフワークとして、日々葛藤している。その課題解決法の糸口をつかむことができるのではないかと期待を込めて、本書を読みつつある。『哲学』の領域からの石田梅岩研究を紐解く示唆を見つけ出せそうな予兆を各氏の論考から感じている。

 編者・片岡龍は「はじめに」で、「石田梅岩の思想を過去の歴史の中に客観的に位置づけることだけをめざしたものではない。これまでのそうした研究の蓄積に十分な敬意を払いながら、しかし実際にはアカデミズムでも新鮮な思想的活力を失ってしまった石田梅岩に、『公共する人間』という観点から新たな息ぶきを吹き込み、それによって又アカデミックな研究課題の再推進にもつながる事を願ったものである」と述べている。

 編者の思いから、梅岩前史、主要著作解説として著わされた付録は「心学」に造詣が浅い読者にとって、十二分にナビの役目を果たしている。普段研究者レベルの知見を求めるまでもない巷間の「心学」入門者にとり、まなびの導入として十二分に活用できるパーツと思える。

 ここ数年、当舎も『都鄙問答』勉強会を企画してきた。梅岩の教え、石門心学思想、を知るために、梅岩の数少ない著作の一つを読み深めることは重要である。しかし、それだけでは、『論語読みの論語知らず』ということに陥りやすいと筆者は管見している。

 石田梅岩の実践を知り、その背景を把握していくことで、現代の「石田梅岩」講舎活動が始まるとも考えたい。それはとりもなおさず本書の『公共する人間』像としての梅岩を再認識していく過程で浮かび出てくるのではないだろうか、これまでの視座を変え「石田梅岩」に向き合ってみたらいかがだろうか。

 書物紹介の手法からは、逸脱した私見を記すことになった。「公共する人間」シリーズは、第1巻伊藤仁斎にはじまり、石田梅岩、横井小楠、田中正造、新井奥邃まで、「公共」で繋ぎ、文人学者、町人教育者、開国の志士、思想人、越境者など、その揃えは興味深く、ぜひ全巻読破したい

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